「子宮脱」とは、子宮を支えている靱帯や筋肉が緩み、その結果、子宮が下がってくる病気です。女性は分娩の際に、骨盤の筋肉や靱帯が損傷されたり引き伸ばされたりします。その後、年齢が加わると体の組織が弱くなって伸びやすくなり、次第に子宮が下がってくるのです。子宮のみならず、膣、膀胱、直腸なども下がってきます。なお、子宮摘出後の方でも膣が下がってくることがあります。最近はこれらの症状を総称して「骨盤臓器脱」と呼んでいます。ご高齢の方に多い病気ですが、40歳代で手術を受ける方もいらっしゃいます。お産を何回も経験された方、力仕事をされる方に出やすい病気です。その他、ご本人の体質も関係します。
病気が進行してくると、「股の間に何か挟まった感じがある」「ピンポン玉のようなものが出てくる」といった症状が出てきます。下がった骨盤内臓器が自然には戻らなくなり、ご自分の手で押し戻さなければならなくなります。さらに進行すると、常に脱出したままで全く戻せなくなります。
脱出した臓器を覆う腟の表面は乾燥してただれてきます。ただれたところからの出血が止まらない方もいらっしゃいます。こうなると単なる不快感ではなく痛みが生じます。
当院には「骨盤臓器脱」でお困りの数多くの方が来院されます。お話を伺うと、誰にも相談できずに我慢なさっていた方が少なくありません。性器の病気だけに周囲や病院に相談しにくいようです。昔、家庭のお風呂ではなく銭湯に通っていた時代には、ご年配の女性が脚の間に肉の塊をはさんでいる姿を見かけたといいます。
今では家庭にお風呂がある時代となり、そのため『自分だけの病気』と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ペッサリーと呼ばれるリングを入れる方法です。ペッサリーを腟の中に入れると、これに子宮が引っかかって下がってこなくなります。
外来で短時間に挿入できるため患者さんのご負担は少なくて済みます。
しかし、この方法は根本的に骨盤臓器脱を治療している訳ではないため、ペッサリーを取り出せば元の状態になります。またペッサリーを入れていても骨盤臓器脱がさらに進行する可能性があります。最も進行した状態ではペッサリー自体が腟から脱出してしまい、この方法では対応できなくなります。また、ペッサリーが腟を圧迫するため腟がただれてしまい、出血やおりものが多くなることがあります。ペッサリーに腟の肉がからみついて取れなくなってしまうこともあります。ですからペッサリーを入れた後は定期的な診察が必要です。
現在、日本で最もよく行なわれているのは、次のような手術です。
①下がってきた子宮を摘出する。
②伸びてしまった腟を一部切除し縫い縮める。
この手術は腟の方から行ないますのでお腹を開けなくても済みます。
手術時間は1時間半~2時間くらいです。術後10日くらいで退院になります。
子宮摘出後に腟が下がってくる方には、腟を縫い縮めたり、腟を靱帯に
固定したりして下がってこないようにします。
この手術法の難点は、腟を縫い縮めることで腟が狭くなってしまうことです。
腟が狭くなれば性交に支障が生じます。逆に、腟に余裕を残す手術にすると、
再発しやすくなります。
【TVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術】
この手術の優れている点は次の通りです。
①従来の治療法においては、手術後に腟が下がる再発率が10~20%といわれていましたが、TVM手術では5~10%とより低い再発率です。
術後7日目に退院です。従来法では退院が術後10日目になります。
③従来の手術では腟が狭くなり性生活に支障が出ていましたが、TVM手術で腟が狭くなることはありません。
●この手術における合併症
メッシュの露出…腟の裏に埋め込んだメッシュが、
腟から露出してくることがあります。発生頻度は5%以下です。この場合、露出したメッシュを切除して腟を再縫合することがあります。
①術後しばらく、ご自分の力だけで排尿することが困難となる場合があります。2週間ほどで尿の排泄能力は回復すると思われますが、まれに長期にわたり回復しないこともあります。その場合、泌尿器科の治療が必要になります。
②術後、尿のもれることがあります。これは手術の結果、下がっていた膀胱が元の位置に戻ることによる副作用です。症状が強いときには泌尿器科での尿失禁手術をお勧めします。また、術前から尿もれのある方に骨盤臓器脱手術を行なっても、皆さんが尿もれの症状を解消できるわけではありません。このような方にも尿失禁手術をお勧めします。