一言で陣痛といっても、痛くなる場所は分娩の進行とともに移り変わっていきます。
陣痛が始まった直後の痛みは、軽い生理痛のような症状といわれます。具体的には下腹部や腰の痛みです。これらの痛みは、図1のAの高さの神経が伝えるといわれています。この痛みが強くなってくると、「生理痛の100倍の痛み」とか「ハンマーで腰を砕くような痛み」へと変わっていきます。
さらに分娩が進行してくると、赤ちゃんの頭が下がってきます。赤ちゃんの頭が腟やお尻を圧迫しますので、「腟が痛い」「お尻が痛い」という症状が出てきます。このときの痛みは、図1のBの高さの神経が伝えるといわれています。分娩の終わり頃になると、お腹や腰の痛みはピークを越えて、痛みの中心は腟やお尻に変わります。
図1.痛みについて
シングルカテーテル法
ここで知っておいていただきたいのは、痛みを伝える「AとBの神経は場所が離れている」ということです。無痛分娩の麻酔チューブは、下図のように「C」の位置に1本入れるのが一般的です。これをシングルカテーテル法と呼びます。この方法で約8割の産婦さんに対応できるのですが、残りの2割の産婦さんでは「どうしてもお尻や腟の痛みが取れない」という事態になってしまいます。陣痛の痛みでもっとも辛いのは、赤ちゃんが生まれてくる直前の腟やお尻の痛さです。一部の方とはいえ、「無痛分娩を希望したのに最後がとても辛かった」という事態は、できる限り避けたいものです。
ダブルカテーテル法
陣痛の痛みを伝える神経は下図AとBの2ヶ所に分かれていますので、それぞれの神経に近づけて麻酔チューブを1本ずつ配置します。痛みの場所に合わせて麻酔薬を投与できるため麻酔効果は高いのですが、チューブを挿入する際の負担(皮膚に痛み止めの注射をするときの注射の苦痛、チューブ挿入の所要時間)がシングルカテーテル法の2倍となります。また、硬膜外麻酔の合併症として挙げられる頭痛の発生率も2倍になります。
背骨の中の狭い腔(くも膜下腔)に細い針を入れて、そこから麻酔薬を注入します。注入後、約1〜2分で陣痛の痛みがなくなります。お産の進行が急速で早急に麻酔効果が必要な場合に行いますが、1〜1時間半ほどで麻酔効果は薄れます。当院で無痛分娩のために脊椎くも膜下麻酔を用いるのは、年間5件前後です。
この麻酔では ①血圧低下 ②数日間に渡る頭痛 ③胎児徐脈発生による緊急帝王切開などの合併症が発生することがあるといわれています。
当院では、これまで問題となるような事例は発生していませんが、これは対応ケースが少ないことによるのかもしれません。急速な麻酔効果を希望される場合には、脊椎くも膜下麻酔を行いますが、上記の合併症が発生しうることをご理解ください。また、脊椎くも膜下麻酔では、硬膜外麻酔と同様の合併症が起こることもあります。