①ご主人様が海外でお仕事をされていて、1週間だけならお休みが取れるので、その期間中に出産したい。
②パニック障害など心の病気があり、陣痛に対する不安が強い。
③赤ちゃんの誕生日と自分の誕生日、記念日などを同じ日にしたい。
①なかなか陣痛が始まらないことがある
陣痛促進剤を使って陣痛を起こそうとしてみても、なかなか陣痛が始まらないことがあります。夕方までやってみて陣痛が始まらなければ、いったん陣痛促進剤の点滴を中止します。そして翌日の朝から、再び点滴を始めるのです。その日もうまく行かなければ、さらに翌日にやりなおします。
陣痛が始まらないと、産婦さんは不安になって涙が出てしまうこともあります。ちょうど体育の授業でランニングをするときに、自分だけ周回遅れになるようなものです。隣では自然分娩の妊婦さんが次々とお産になっていくのに、自分だけ取り残されたような気分になります。不安のあまり「帝王切開にしてください」とおっしゃる方もいるくらいです。
そのようなときには、一旦退院していただきます。医学的に「今すぐにお産をしなければならない」という状況ではない訳ですから。
ただ、ご本人様も、ご家族様も「この日にお産になる」と期待されていただけに、がっかりされますし、ご主人様もお休みを消化されてしまって、いざ陣痛が始まってもお休みが取れない可能性があります。
また、お金のことも心配です。赤ちゃんがお生まれになれば、分娩費用は健康保険の補助金の範囲で済みますから、自己負担はほとんどありません。
しかし、お産にならなければ、1日3万円かかります。3日間がんばったのに赤ちゃんが生まれない場合、9万円の自己負担になってしまいます。赤ちゃんが予定通り生まれてくれなかったうえに、高額の費用を請求されるのは、ご負担が大きいと思います。
②無痛分娩の満足度が下がる
例えば、お産の勢いを車のスピードに置き換えた場合、自然に陣痛が始まった方の場合、入院時には既に時速50キロくらいのスピードがあります。無痛分娩を開始すれば、陣痛が弱まって時速30キロくらいになるかもしれませんが、もしもスピードが落ちたとしても、そのときは陣痛促進剤を使って陣痛を強め、スピードを元に戻すことも可能です。
一方、計画分娩の場合は、陣痛がまったくない状態でスタートする訳ですから、車でいえば0キロです。そこから陣痛促進剤を使って陣痛を強めていきます。陣痛促進剤を最大限に使って、やっと時速50キロくらいまで持っていったのに、そこで無痛分娩の麻酔を使うと陣痛が弱まってしまい、時速30キロの状態まで逆戻りしてしまいます。
ところが、既に陣痛促進剤は最大限まで使ってしまっているので、それ以上は量を増やすことができません。結局、弱い陣痛が続き、いつまで経ってもお産になりません。
この状態を解決するために行うのが、麻酔薬の減量です。麻酔が陣痛の邪魔をしているので、麻酔薬を減らしてお産の勢いを取り戻すのです。しかし、麻酔薬を減らせば痛みの感覚は増して「痛いお産」になります。「無痛分娩のはずだったのに、痛くて辛かった」という事態にもなりかねません。
リスクを考慮したうえでご希望ください
計画分娩の多くは上手くいきますが、一方で「こんなはずではなかった」という事態になることもあります。特に初めてお産を経験する初産婦さんには、注意が必要だといえるでしょう。ですから、当院では積極的な計画無痛分娩をおすすめしておらず、自然に陣痛が始まってからの無痛分娩をおすすめしています。
ただ、リスクを考慮したうえで「やはり計画無痛分娩を」とご希望の方には、ご協力しています。
過去のエピソードについて
過去には、東日本大震災で派遣される自衛官の奥様が、ぜひ派遣前に子どもの顔を見せたいと申し出られたことがありました。
また、シングルマザーで上のお子さんを2人抱えられている女性が、計画無痛分娩を希望されたこともありました。
お腹の中の赤ちゃんは新しいパートナーとの間にできたお子さんだったのですが、ご実家に勘当された状態で、お産中に上のお子さんのお世話をしてくれる人がいませんでした。見かねたご友人が「私が仕事を休んで見ていてあげる」と言ってくれたものですから、お友達のお休みに合わせて計画分娩をされたのです。
計画分娩は理想通りに進まないこともありますが、その点も割り切ってご決断いただけた場合には、ほかのお産と同じく全力でお手伝いをさせていただきます。