慈恵病院 無痛分娩

無痛分娩の安全性無痛分娩の安全性
無痛分娩をお考えの方が、もっとも心配されるのは安全性です。インターネット上で検索すると「無痛分娩」を入力した時点で、以下の項目が上位候補に上がります。「無痛分娩 デメリット」「無痛分娩 リスク」「無痛分娩 事故」など無痛分娩の安全性について、社会の関心の高さが伺えます。無痛分娩はそれほどリスキーな分娩法なのでしょうか?
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無痛分娩は本当に安全なのか?

結論を申し上げれば、麻酔科の教科書や無痛分娩の教科書通りに管理すれば、無痛分娩で深刻なトラブルが起こる確率はまれです。通常の管理が行われていれば、無痛分娩は安全な医療といえます。

 

ただ、2017年に無痛分娩の事故が相次いで報道されました。これは関西の産婦人科で発生した事故で、母体が死亡したり、深刻な後遺症を残したりといった結果になりました。
原因は、麻酔のチューブが誤った場所に入っていることに気付かず、麻酔薬を注入してしまったことにあると考えられます。しかし、仮に誤った場所に麻酔チューブが入ってしまったとしても、教科書通りに対応をしていれば、重大なトラブルを防ぐことができたはずです。

 

日本で行われている無痛分娩の多くは教科書通りの対応で行われているのですが、ごく一部の施設がそれから外れた対応をしてしまい、不幸な結果を招いています。

無痛分娩と交通事故の発生率を比較すると…

「無痛分娩で母体が死亡する確率はどれくらいか?」と心配される方がいらっしゃいます。
無痛分娩の麻酔が原因で母体が死亡するのは、全国で2~3年に1例と言われています。日本で行われている無痛分娩は年間に5~6万件といわれていますので、多く見積もっても10万人に1人の発生頻度です。

 

ちなみに熊本県では年間60人(2018年時点)の方が交通事故で亡くなっています。熊本県の人口は174万人(2018年時点)ですから、熊本県では2万8,500人に1人が交通事故で亡くなっていることになります。
無痛分娩と交通事故を比較するのは統計学的に正確ではないかもしれませんが、単純に発生率だけを比較すると、無痛分娩で亡くなる確率よりも交通事故で亡くなる確率の方が高いのです。
ところが、多くの人は交通事故が怖いからといって車に乗るのを止めたりしません。これは「車に乗っても大丈夫だった」という過去の経験が積み重なっていることと、車に乗らなければ利便性が極端に損なわれるからです。

 

一方、多くの方は無痛分娩の経験がないため、過去の経験から安全性を確認することができずに不安を感じます。ただ無痛分娩に携わる医療施設の立場から申し上げれば、無痛分娩がトラブル続きで危険な医療行為なら、医師の精神が持たずに「無痛分娩を受け入れるのは止めよう」という判断になるはずです。

当院では過去約10年間で3,700例以上の無痛分娩に携わってきましたが、なかでも比較的深刻だったトラブルといえば、1~2週間続く頭痛が数例でした。また、お産が長引いて胎児による膀胱の圧迫時間が長くなり、分娩後1ヶ月以上に亘って尿が出にくかったケースが1例ありました。
その他、麻酔によって後に後遺症を残すなど、命に関わるようなトラブルを経験したことはありません。
無痛分娩のデメリット・リスク・合併症についてはこちら

妊婦さんの不安を解消するには?

麻酔も薬も手術も、医療行為には必ず副作用がついて回ります。しかしそれらを心配しすぎると、必要な医療を受ける機会を失います。陣痛に強いストレスを感じていて、無痛分娩が頼みの綱となっている妊婦さんに副作用を強調しすぎると、八方ふさがりになってお産すらできなくなってしまいます。

 

ちなみに自然分娩も無痛分娩も恐くてできない妊婦さんに残る選択肢は帝王切開ですが、帝王切開に用いる麻酔は無痛分娩と同じく脊椎くも膜下麻酔や硬膜外麻酔が主流ですから、帝王切開という選択肢すら怪しいものになってしまうでしょう。

 

妊婦さんの不安はマスコミが無痛分娩のトラブルをセンセーショナルに報道している事にも影響を受けています。実は、帝王切開の麻酔で死亡する頻度と無痛分娩の麻酔で死亡する頻度は同じくらいといわれていますが、帝王切開の麻酔による母体死亡は報道されません。しかし無痛分娩の麻酔で母体が死亡すると大きく取り上げられます。その背景には「お産は自然が一番なのに、人工的に手を加えてしまったからこんなことになった」と批判的にとらえる社会の雰囲気があると考えられます。


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