入院時
陣痛が始まった産婦さんが入院されると、まず助産師が内診をします。子宮口、つまり子宮の入り口が3~5㎝開いていて、陣痛も5〜10分毎にあれば麻酔を始めます。
もしも入院の時点で子宮口の開きが1~2㎝だったり、陣痛の間隔が10分以上空いていたりする場合は、麻酔を開始せずに陣痛室で待機していただきます。
このような方の場合、その後に陣痛が引っ込んでしまって、一旦退院されることもありますので麻酔を始めません。
麻酔の準備
麻酔を開始するにあたっては、いくつかの準備が必要です。
まず、赤ちゃんの心拍モニターや母体の血圧・心拍モニターを装着しなければいけません。
また、点滴も必要です。麻酔中に血圧が下がらないように事前に点滴をして、血液のボリュームを増やしておきます。これらの準備に30分〜1時間ほどかかります。
麻酔チューブ挿入
次に麻酔チューブを挿入します。挿入にあたっては、背中をエビのように丸くしていただきます。これがもっともスムーズに麻酔チューブを入れることができる体勢です。この体勢のポイントは「おへそ」です。
「膝をおへそにくっつけるような姿勢」そして「首だけカクッと曲げておへそをのぞき見るような姿勢」を取ると、上手くいきます。
麻酔チューブを入れるには、太めの注射針を刺さなければいけませんから、事前に皮膚に局所麻酔をして痛くないようにします。この局所麻酔がチカッとするかもしれません。
当院では麻酔チューブを2本挿入することが多いのですが、2本入れるのに15〜20分かかります。麻酔チューブから麻酔薬が入ると、5〜10分で少しずつ陣痛の痛みが和らいできます。麻酔開始から30分すると、痛みを感じなくなります。
麻酔の開始後
無痛分娩を開始して1~1時間半は麻酔が効いています。しかし麻酔薬は体内で分解されますので、いずれ痛みが戻ってきます。痛くなってきたらナースコールで助産師をお呼びください。痛くなってきたときは分娩が進行しているかもしれませんので、助産師が内診させていただきます。
助産師は産婦さんの①痛い場所、②陣痛の間隔、③内診所見について医師に報告します。報告を受けた医師は麻酔薬追加の指示をし、助産師が麻酔薬の追加を行います。
この経過を繰り返しながらお産の進行を待ちます。
出産直前
出産直前は腟やお尻の痛みが強くなります。赤ちゃんが生まれる瞬間を落ち着いて迎えていただけるように、麻酔薬を追加します。
ただし、赤ちゃんが大きい場合や、赤ちゃんの頭の向きがずれている場合には、麻酔薬を追加しないこともあります。麻酔薬が赤ちゃんを押し出す力を弱めてしまう可能性があるためです。
出産後
出産後に、傷の縫合をしなければいけない場合があり、そのために麻酔薬を追加します。縫合が終了すれば、麻酔チューブを抜き取ります。
お産から2時間ほど経つと分娩室を出て病棟の個室に入っていただくのですが、この時点で麻酔の効果は消えています。その後の授乳などは普通にしていただけます。
ここで、追加のご説明が2点あります。
①無痛分娩の実施には、モニター装着や点滴等といった事前の準備が必要です。準備には30分以上かかりますし、麻酔を開始して実際に麻酔薬が入るまでに5〜10分かかります。
さらに、その麻酔薬が効果を発揮するまでに5〜10分かかります。以上の時間を合計しますと、産婦さんが「麻酔を始めてください」とおっしゃってから陣痛が軽くなるまでには、1時間程度かかるわけです。麻酔を希望されて、すぐに陣痛が軽くなるわけではありません。
②お産の後の縫合が終われば、原則として麻酔も終了です。麻酔チューブも抜いてしまいます。ただ「お産の後の傷の痛みがつらい」とおっしゃる方には、麻酔チューブを残しておいて、そこに麻酔薬を流し続けることもできます。
しかし、それには専用の使い捨て器具が必要です。その器具代や麻酔薬の費用等で、初日8,000円、2日目5,000円、3日目5,000円の追加費用が発生します。分娩中の麻酔は無料ですが、分娩後については費用が発生します。ただし、実際に分娩後も麻酔を使用される方はほとんどいらっしゃいません。
上記のような流れに沿って、無痛分娩は進行します。しかし、お産にはイレギュラーがつきものであり、すべての産婦さんがこの流れのとおりに出産されるとは限りません。
計画無痛分娩やソフロロジー法を併用した無痛分娩、また無痛分娩時の過ごし方などもご覧いただき、産婦さんとご家族にとって最適な分娩法を選択されるのが良いかと思います。その際、分からないことや不安なことがあれば、いつでも医師にお尋ねください。